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心理学ワールド 82号 この人をたずねて 結城雅樹 氏 辻 由依(北海道医療大学) | 日本心理学会

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Academic year: 2021

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34 Profile─ゆうき まさき 1999年,東京大学大学院人文社会 系研究科博士課程修了。博士(社会 心理学)。北海道大学文学部講師・ 助教授・准教授を経て現職。同大学 社会科学実験研究センターでセン ター長を兼任。著書は『文化行動の 社会心理学』(編著,北大路書房), Culture and group processes (編著, オックスフォード大学出版)など。 この人をたずねて ■結城先生へのインタビュー ─先生のこれまでの研究と現在 取り組まれている研究について教 えてください。  社会の多様性と心の多様性とを 理論的・実証的に結びつけること です。私たち人間は過酷な自然の 中で生き抜くための道具として集 団や社会などの「社会環境」を集 合的に作り上げてきました。私た ちの心は,こうした社会環境の中 で上手く立ちまわれるように,つ まり「適応的に」できています。 ただ,社会や集団には多様性があ り,地域によって,時代によって, あるいは場面によっても性質が 違っています。では,社会の性質 と心の性質の間にはどのような関 係があるのでしょうか。国際比較 研究などを通じてこの問いに答え ることを試みてきました。 ─現在の研究に進まれたきっか けについて教えてください。  管理教育的だった中学と自由す ぎる高校という全く異なる環境の 中,社会の性質の多様性について 考える機会があり,社会学に関心 をもちました。学部では主に社会 学を学びましたが,特に,欧米と アジアの社会システムの違いとそ の原因に関する議論には強い関心 を抱きました。また同時期に,非 言語行動の文化差にも関心をも ち,それを,社会の性質の違いか ら説明したいと考えました。そ の後,人間行動や心理過程の理論 と研究手法をもっと学びたいと 思い,大学院からは社会心理学を 専攻しました。大学に職を得た 1990年代終盤から2000年代中盤 までは,「あまり知られていない 心の文化差」を明らかにする作業 をしました。例えば,「東アジア 型集団主義と北米型集団主義の違 い」という集団行動原理の文化差 や「目への注目 vs 口への注目」 という表情認知原理の文化差など は,私が初めて仮説を提出し,実 証に成功したものです。 ─現在,力を入れている研究 テーマについて教えてください。   こ こ10年 間 ほ ど 最 も 力 を 入 れ て き た の が,関 係 流 動 性 (relational mobility)に関する研 究です。関係流動性とは,その社 会の中でどのくらい選択的に対人 関係を選べるかということです。 常に流動しているという意味では なく,任意に選びやすいか,選択 の自由度が高いかということで す。この研究を始めるにあたり最 も直接的に影響を受けたのが,最 近お亡くなりになった山岸俊男先 生による信頼社会と安心社会の比 較理論です。 ─関係流動性,日本は低い感じ がしますね。  そうですね。対人関係が固定的 で,外から守られているような状 態ですね。好むと好まざるとにか かわらず対人関係が自動的に継続 しがちということです。それに対 し,「関係流動性」の高い社会が どうやって成立しているかという と,個々人の努力で成り立ってい ます。そうしないと相手から関係 を切られてしまうからです。相手 を自由に選べるということは,自 分も相手に選んでもらわなくては いけない。努力しなければ,誰か に相手を奪われてしまいます。私 たちの研究で,北米の人たちは東 アジアの人たちと比べて,情熱的 な愛や友人に対する親密性,自尊 心など,こうした対人関係の競争 に勝ち残るための心の働きが強い こと,またこれらの差が両社会間 の関係流動性の違いによって説明 できることがわかりました。  現在は,これまでの研究を踏ま え,北米と東アジアだけでなく世 界各地からのデータを集める,社 会の特性と個人の特性の複合的な 影響について考える,関係流動性 の理論モデルを作る,脳神経科学 的な観点からみる,動物との共通 性と断絶を考えるなど,さらに多 様な視点を統合させる方向へ進み 始めています。  さらに,昨年からはオックス フォード大学の認知人類学者や歴 史学者らなどと協働する歴史デー 北海道大学大学院文学研究科 教授

結城雅樹

インタビュー

辻 由依

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35 この人をたずねて タベースプロジェクト“Sセ シ ャ ッ トeshat”の メンバーにも加わっています。過 去へと時間軸を遡ることにより, 人間と社会との関係をめぐる考察 をいっそう深めることを試みてい ます。 ─国際的活動にも力を入れてい らっしゃるのですね。  国際的活動は常に意識し,国際 共同研究や,外国人大学院生の受 け入れを積極的にしてきました。 ですが,私も最初から英語が得意 だったわけではありませんし,今 でも苦労は多いです。しかしそれ でも,どうにか頑張って第一線で 研究活動ができるようになりまし た。自分の仮説や知見を「日本 語が分かる人にしか伝えないの はもったいない」と思ったから です。また,ベストな共同研究者 は,必ずしも日本にいるわけでは ないということもあります。現在 のこうした国際的活動のきっかけ を作ってくださったのは,大学院 時代の恩師であり,アジア社会心 理学会の設立メンバーでもある山 口勧先生です。当時はあまり一般 的ではなかった国際学会への参加 や海外の大学での滞在研究,そし て様々な国の研究者とのネット ワーキングなどの機会を与えてい ただきました。 ─もしも,全く別の研究を行う としたら,どのようなことに興味 がありますか。  難しい質問ですね。全く別の, ということではないのですが, もっとフィールドワークをした かったというのはあります。人 間や社会を観察するのは楽しい です。また,実は私の研究の中に は,私の日常生活での気づきが端 緒になっているものも多いです。 幅広い分野の理論や知見,そして フィールドなど,いろんなところ に研究に役に立つヒントが転がっ ていると考えています。 ─今お話しいただいている内容 は若手研究者へのメッセージとい うことにもなりますか?  そうですね。何でも多角的に見 て,大胆に組み合わせていくと面 白いと思います。あと,学生には 「三割バッターを目指しなさい」 と言っています。 ─それはどういう意味ですか?  新しいものを生み出そうとした ら,完璧主義でやっても上手くい かない時のほうが多いです。で すが,長く続けていれば何かヒッ トすることもありますし,コツコ ツ続けていくのが大事だと思いま す。大切なのは,心理学に対して 自分が貢献できることは何かを 考え,自身の強みを出していくこ とです。例えば,日本を含むアジ アの研究者には,心や行動に対す る環境の拘束力,すなわち「場の 空気の力」を直感的に理解でき るという,欧米のメインストリー ムの研究者たちがなかなか気づ かないアドバンテージがあると 思います。その,「空気」を言語 化し,理論化し,実証すれば,これ までにない理論が作れるはずで す。ぜひとも自分自身の強みを生 かして,心理学ワールド,もとい 「ワールド心理学」に影響を与え ていってください! ■インタビュアーの自己紹介  インタビューを終えて  いちばん強く感じたことは,結 城先生とのお話はとても楽しかっ たということです。結城先生の お話はとても興味深く,インタ ビューを忘れ聞き入ってしまいま した。実際に経験されたことをお 話しくださったり,その場でノー トに絵を描いたりパソコンで資料 を見せてくださったりと,楽しそ うにお話ししてくださる姿が印象 的でした。結城先生の研究に対す る熱意やご自身の研究にやりがい を感じていることが伝わってきま したし,私もそのような研究がし たいな,と思いました。  私のやりたいこと  元々,アディクション全般に関 心があり,その中でも物質使用障 害を中心に研究を行ってきまし た。これまでは物質を使用する本 人に焦点を当てることが多かった のですが,物質使用者の家族にも 支援が必要であると強く感じるよ うになったことから,最近は家族 への支援方法の充実にも力を入 れたいと考えています。具体的に は,家族への支援方法の一つであ る「Community Reinforcement and Family Training(CRAFT)」 を用いた支援を行っていきたいと 考えています。CRAFTは家族へ の働きかけを通じて,家族と物質 使用者双方の回復を促すことが可 能な効果的な支援方法です。で すが,多様なエビデンスによって 効果が示されている一方で,なぜ CRAFTが効果的なのか,といっ たCRAFTのメカニズムについて は不明瞭な部分が多いです。今後 は家族の変化を客観的に検討する ことを通じて,CRAFTの精緻化を 進めていければと考えています。 Profile─つじ ゆい 大学学生相談室やメンタルクリニックなどの勤務 を経て,現在は北海道医療大学大学院心理科学研 究科博士後期課程に在学。日本学術振興会特別研 究員(DC)。専門は認知行動療法,アディクション, 家族支援。著書は『認知行動療法の技法と臨床』 (分担執筆,日本評論社)など。

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